原子間力顕微鏡は、サンプルをナノスケールで研究するための最も用途が広くて強力な手法であることは間違いありません。 3次元トポグラフィーにてイメージングできるだけでなく、研究者やエンジニアのニーズに合わせて様々なタイプの表面測定を可能とするため、非常に汎用性が高いです。AFMを使うことで、 サンプルの準備に労力をかけずにオングストロームスケールの分解能での高さ情報を基に、原子レベルの解像度にてイメージングが可能です。では、AFMはどのように機能するのでしょうか?このページでは、 わかりやすいビデオアニメーションを使ってAFMの原理を解説いたします。どうぞお気軽にこのページを他のユーザーと共有してください。ご不明な点等ございましたら、メールでのお問い合わせをお願いいたします。
- AFM Principle
-
- AFMの原理
- Standard Imaging
-
- コンタクトモード
- ノンコンタクトモード
- タッピングモード
- Dielectric-Piezoelectric
-
- ダイナミックコンタクトEFM(DC-EFM)
- 静電気力顕微鏡(Electrostatic Force Microscopy, EFM)
- Electrical Properties
-
- コンダクティブAFM
- I-Vスペクトロスコピー
- 走査型キャパシタンス顕微鏡 (Scanning Capacitance Microscopy, SCM)
- 走査型ケルビンプローブ顕微鏡(Kelvin Probe Force Microscopy, KPFM)
- 走査型拡がり抵抗顕微鏡(SSRM)
- In-liquid Imaging
-
- イオンコンダクタンス顕微鏡(ICM)
- Force Measurement
-
- フォースディスタンススペクトロスコピー (Force-Distance Spectroscopy)
- Magnetic Properties
-
- 磁気力顕微鏡 (Magnetic Force Microscopy, MFM)
- Mechanical Properties
-
- フォースモジュレーション顕微鏡 (Force Modulation Microscopy, FMM)
- 摩擦力顕微鏡(Lateral Force Microscopy)
- ナノインデンテーション
- ナノリソグラフィ
- Optical Properties
-
- 走査型近接場光学顕微鏡 (Scanning Near-field Optical Microscopy, SNOM)
- チップ増強ラマンスペクトロスコピー (Tip-enhanced Raman Spectroscopy, TERS)
- Thermal Properties
-
- 走査型サーマル顕微鏡(Scanning Thermal Microscopy, SThM)
- Electrochemical property
-
- 電気化学顕微鏡(EC-AFM)
AFMの原理
ナノの世界
ナノは、ギリシャ語の小人を意味する単語に由来する言葉で、数学では10の-9乗を意味します。 すなわち、ナノメーターは10億分の1メーターに相当し、このスケールでは、分子間力、量子効果が有効です。ナノスケールを例で説明すると、原子のリンゴに対する大きさの比は、リンゴの地球に対する大きさの比に等しいです。原子間力顕微鏡(AFM)は、私たちをナノスケールの世界に導いてくれるものです。
AFMの原理
- · 表面センサー
AFMでは、サンプルの表面をスキャンするのに、とても鋭いチップを有するカンチレバー(片持ち梁)を用いています。チップがサンプル表面に近づくと、サンプル表面とチップの近距離で働く引力により、カンチレバーがサンプル表面に対して偏向します。しかしながら、カンチレバーがさらにサンプル表面に近づき、チップがサンプル表面に接触する程度になると、反発力が有効になり、カンチレバーをサンプル表面から偏向させます。 - · 感知方法
サンプル表面に対するカンチレバーの偏向の程度を、レーザービームを用いて感知します。入射ビームがカンチレバーの表面トップを反射することにより、カンチレバーの偏向が反射ビームの方向にわずかな変化を生じさせます。2 分割フォトダイオード(position sensitive photo diode, PSPD)により、この変化を感知します。このようにして、AFMチップがサンプル表面の特性を感知することにより、カンチレバーの偏向(およびそれに伴う反射ビームの方向の変化)がPSPDにより記録されます。 - · イメージング
AFMを用いて、サンプル表面の対象領域について、カンチレバーのスキャンによりサンプル表面の形態をイメージ化することができます。サンプル表面の隆起および陥没は、カンチレバーの偏向に影響し、PSPDによるモニターが可能です。サンプル表面からのチップの距離を制御するフィードバック・ループを用いることにより、レーザー位置を保つことが可能となり、AFMはサンプル表面の正確な形態を描くことができます。
コンタクトモード
このモードでは、カンチレバーがサンプル表面上をスキャンします。カンチレバーがサンプル表面に接触するため、強力な反発力が生じ、サンプル表面の形態に応じてカンチレバーに偏向を生じさせます
ノンコンタクトモード
このモードでは、サンプル表面のスキャン時に、カンチレバーが表面上を移動します。正確で高速なフィードバック・ループにより、カンチレバーが表面に接触するものを防ぎ、チップとサンプル表面は接触しません。チップがサンプル表面に近づくと、カンチレバーの移動増幅が減少するようになっています。この増幅の偏向を制御するフィードバック・ループにより、サンプル表面形状のイメージを描くことができます。
タッピングモード
これは非接触モードの変法で、カンチレバーが表面付近を移動しますが、振動の増幅が大きく設定されています。このことにより、反発シグナルはサーキット制御に十分な大きさとなり、形態フィードバックをより容易にします。これによりAFMの観察結果はシャープではなくなり、チップのサーブネスを高速度で鈍らせることとなり、その結果、イメージの解像度の損失が加速します。
ダイナミックコンタクトEFM(DC-EFM)
ダイナミック接触EFM(DC-EFM)は、サンプル表面の形態と荷電状態について、標準EFMでは2つのスキャンを用いるのに対して、1つのスキャンで計測するものです。この方法では、カンチレバーの共振よりもAC電流の差異によるバイアスを受けます。PSPDシグナルの振動コンポーネントは、固定増幅器により抽出され、EFMシグナルとなって感知されます
静電気力顕微鏡(Electrostatic Force Microscopy, EFM)
電気力顕微鏡(EFM)は、伝導カンチレバーを用いて、サンプル表面の強誘電性を有する範囲を探査することができます。EFMのイメージは、次の2つのスキャンの組み合わせによって作成されます。1つは形態の探査で、もう1つはカンチレバーが表面からは距離を置き、ロングレンジの静電気力が支配的な範囲によりものです。この静電気力が支配的な領域では、サンプル表面の正負の荷電の領域により、カンチレバーが誘導的あるいは反発的な影響を受けます。EFMは、ナノスケール領域において、形態とともに荷電状態の情報を提供することができます。
コンダクティブAFM
サンプルの伝導度は、接触AFMスキャンを伝導バイアスチップを用いて行うことにより測定可能です。サンプル表面の高伝導度の部分は電流が容易に通過することができ、低伝導度の部分は抵抗が大きい。伝導AFMにより、サンプル表面の形態および電気伝導度の状況を把握することが可能です。
I-Vスペクトロスコピー
カンチレバーをサンプル表面と接触させることにより、カンチレバーとサンプル表面間の電圧バイアスを適用することが可能です。バイアスの変化に伴う電流を測定することにより、特定部分のサンプル表面の電気的特性の詳細を知ることが可能です。これらの測定地点のデータを収集することにより、サンプル表面の全体的な電気特性の把握が可能です
走査型キャパシタンス顕微鏡 (Scanning Capacitance Microscopy, SCM)
走査型キャパシタンス顕微鏡(SCM)は、サンプル表面と金属プローブの電子密度の部分的差異を記録することにより、サンプル表面の特性を調べることができます。チップとサンプルの電子密度は、ACおよびDCコンポーネントを含むバイアス電荷の変調により探査可能です。電子密度センサーの出力は、増幅器により高シグナル・ノイズ比のデータに変換することが可能である。SCM出力シグナル(dC/dV)の大きさは電荷密度すなわちドーパント濃度の関数です。
走査型ケルビンプローブ顕微鏡(Kelvin Probe Force Microscopy, KPFM)
走査型ケルビンプローブ顕微鏡(SKPM)では、AFMは非接触モードで動作し、伝導カンチレバーは基本共鳴周波数で振動し、サンプル表面全体を側面からスキャンします。観測される静電シグナルは、表面ポテンシャルおよび電子密度勾配に関する情報を提供します。形態データは、チップと表面サンプル間に働く引力を制御することによって得られます。
走査型拡がり抵抗顕微鏡(SSRM)
SSRM(スキャニングスプレッディングレジスタンス顕微鏡)は、主に半導体断面の電気的特性を解析するために使用されるモードです。試料上の酸化膜を除去した後、酸化を防ぐために真空中で測定が行われます。導電性のカンチレバーを試料に接触させ、カンチレバーと試料間に電圧を印加します。カンチレバーは試料表面を強く押圧し、酸化膜を貫通してオーミック接触を確立します。これにより、電流や抵抗などの電気的特性およびトポグラフィーを総合的に測定することができます。抵抗が高い領域では電流が流れにくく、抵抗が低い領域では電流が流れやすくなります。これらの電気的特性は、電流画像および抵抗画像として観察されます。
イオンコンダクタンス顕微鏡(ICM)
イオンコンダクタンス顕微鏡(SICM)はナノメータースケールの開口部のピペットを用いる。溶液中のピペットの内外部間のイオン電流は、ナノピペットチップからサンプル表面の距離により変化します。イオン電流を一定に保つようなフィードバック制御を行うことにより、形態を測定することが可能です。
フォースディスタンススペクトロスコピー (Force-Distance Spectroscopy)
カンチレバーをサンプル表面と接触させることにより、力対距離(フォース - ディスタンス)カーブを得ることができます。サンプルの特定部分のフォース - ディスタンスカーブは、ヤング率或いは粘着性等の機械的特質の情報を提供することができます
磁気力顕微鏡 (Magnetic Force Microscopy, MFM)
電気力顕微鏡(EFM)が形態スキャンと電気的特性に関するスキャンを組み合わせて測定を行うのに対して、磁気力顕微鏡(MFM)は、形態スキャンと磁気特性を別個にスキャンします。MFMでは形態データを得るのに接触AFMスキャンを行うとともに、ロングレンジ磁気力のスキャンも行います。磁気力に関しては、磁気カンチレバーの反発力は、サンプル表面の磁化領域に相当します
フォースモジュレーション顕微鏡 (Force Modulation Microscopy, FMM)
フォースモジュレーション顕微鏡(FMM)では、サンプル表面をスキャンする間、カンチレバーが振動します。カンチレバーの振動増幅は、サンプル表面の部分的硬度により、これはPSPDシグナルに反映されます。PSPDシグナルの増幅の変化は、表面硬度の計算に使用され、内部固定増幅器により抽出されます。
摩擦力顕微鏡(Lateral Force Microscopy)
従来のAFM技術はカンチレバーの垂直方向の偏向を利用してサンプル表面形態のイメージ化を行っていたのに対して、水平力顕微鏡(LFM)はカンチレバーがサンプル表面をスキャンする際のねじれ反発に注目しています。チップがサンプル表面を移動する際のカンチレバーのねじれデータは、サンプルの摩擦力や粘着性特性に関するデータを提供します。
ナノインデンテーション
ナノインデンテーションは、サンプル物質の部分的硬度を測定するもので、AFMチップをサンプル表面に接触させ、サンプルの窪みの源位置でのイメージングを行います。窪みの負荷および除荷カーブの解析により、硬度と弾性を測定可能です。
ナノリソグラフィ
ナノリソグラフィでは、カンチレバーは機械的または電気的方法によりサンプル表面を意図的に変化させるのに用いられます。機械的にサンプル表面を変化させるには、特別の硬度を持ったカンチレバーが使用され、サンプル表面に過度の力が加えられます。サンプル表面を電気的に変化させるためには、高いバイアスを持つカンチレバーがサンプル表面を部分的に参加させるために用いられます
走査型近接場光学顕微鏡 (Scanning Near-field Optical Microscopy, SNOM)
走査型近接場光学顕微鏡(NSOM)では、形態スキャンには、ナノスケール開口を有する特別なカンチレバーが用いられます。スキャン中にはサンプル表面を励起状態に保つためレーザーが開口部を通じて照射され、各励起状態のサンプル部分における光学的反応を感知する目的でフォトンカウンターが用いられます。得られるイメージは、サンプル表面形態と光学的イメージとを組み合わせたものです。
チップ増強ラマンスペクトロスコピー (Tip-enhanced Raman Spectroscopy, TERS)
チップ増強ラマン分光(TERS)では、NSOMによる測定と同様に、サンプル表面からの光学的シグナルを励起レーザーを用いて測定します。レーザーは側面から入射し、チップ増強効果を利用することができます。さらに、フォトン計測器の代わりに分光光度計を用いることにより、サンプル表面の部分的なラマンスペクトルを測定可能で、このデータからサンプル表面の部分的な化学組成を知ることが可能です。
走査型サーマル顕微鏡(Scanning Thermal Microscopy, SThM)
サンプル表面の温度特性を測定するためには、温度依存性の抵抗値を持つカンチレバーを用いたAFM接触スキャンを行います。スキャン中のチップ抵抗値の変化が記録され、サンプル表面の温度イメージとの相関解析が行われます。
電気化学顕微鏡(EC-AFM)
電気化学AFM(EC-AFM)は、酸化還元反応による試料表面の変化をリアルタイムでモニターする高度なモードです。この技術はポテンショスタットとAFMを組み合わせて電位を制御し、液体電解液に浸した作用電極(試料)、参照電極、対極間の電流を精密に測定します。サイクリックボルタンメトリー(CV)は、参照電極に対して作用電極電位を掃引し、電気化学セル内の電流応答を測定することにより、酸化還元挙動を解析する電気化学的手法です。サイクリックボルタモグラム(CV)は、スイッチング電位間の順方向および逆方向スイープ中のカソードおよびアノードピーク電流を示します。CVスイープ中、作用電極での電子移動プロセスにより、試料分子が電極表面で酸化還元反応を受けます。AFMは、CV曲線に沿った特定の電極電位における作用電極の表面形態を高解像度で画像化し、また複数のCVサイクル中の表面形態の変化をリアルタイムで連続的にモニターします。EC-AFMは、析出、腐食、電子移動メカニズムなど、多様な電気化学プロセスに関する詳細な情報を提供します。また、センサー、触媒、バッテリー/エネルギーデバイスなどの材料設計において、重要な知見をもたらします。